一般的に人生に降りかかる大きな出費として人生の3大支出と呼ばれているのが、「教育資金」「住宅資金」「老後資金」の3つです。今回はそのうちのひとつ「教育資金」の資金準備にまつわる情報をご紹介していきます。
学校の入学時にかかる費用は高額になりやすく、学資保険を利用して積み立てていたにもかかわらず、費用が不足してしまうこともあるでしょう。あるいは家庭の事情で資金準備を行っておらず、費用全体を奨学金や教育ローンでまかなおうと検討している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このページでは奨学金と教育ローンの詳細とそれぞれの違い、メリットとデメリット、上手く併用する方法などを解説していますので、進学のための資金づくりとして奨学金と教育ローンの利用を検討している方は、ぜひ参考にしてみてください。
このページの中身
■目次
奨学金と教育ローンについて分かりやすく解説
奨学金と教育ローンの違いについて
まずは奨学金と教育ローンの違いについて見ていきましょう。
下記の表は、それぞれの概要を簡単に比較した一覧です。
奨学金 | 教育ローン | |
---|---|---|
取扱先 | 日本学生支援機構 その他の団体・企業 | 日本政策金融公庫 銀行系または信販会社など |
借りる人 | 学生本人(子) | 保護者(親) |
借り方 | 毎月振込 | 1年分を一括で振込 |
利息の支払い | 在学中は発生しない | 翌日から発生 |
金利 | 第一種:無利息 第二種:0.01%~0.33% | 国:年1.76%(2018年6月現在) 民間:平均2.0~4.0% |
返済開始 | 卒業後 | 翌月から開始 |
融資のタイミング | 入学後の4月~7月 | 申込から20日程度 |
最も重要な違いは、お金を借りるのが学生本人か保護者である親なのか、という点です。
奨学金は学生本人が融資を受けて卒業してから返済が開始するのに対し、教育ローンは親が融資を受けて翌月からすぐに返済が開始されます。
貸付開始時期なども異なりますので、融資が必要になるタイミングも考慮して選ばなければいけません。
ここからは、それぞれの基本的な条件や付加して受けられる支援制度などを、詳しく解説していきます。
奨学金とは
ご家庭が経済的に困窮していて、進学したくても学費を払うことができない学生本人に、給付または無利子や低利息で貸与してくれる制度です。
給付型は返済義務がなくそのままもらえますが、貸与型は卒業後から返済していかなければなりません。
一番有名なのが「日本学生支援機構」という国の奨学金ですが、他にも、都道府県・公益法人・一般企業・大学独自の奨学金など、さまざまな機関が奨学金制度を設けて学生を支援しています。
。
代表的な奨学金として一番検討されることの多い、日本学生支援機構が取り扱う奨学金の概要はこちらです。
■日本学生支援機構の奨学金の種類
第一種奨学金 | 第二種奨学金 | |
---|---|---|
基準 | 特に優れた学生および生徒で、経済的理由により 著しく修学が困難な人(厳しい) | 特に優れた学生および生徒で、経済的理由により 著しく修学が困難な人(緩やか) |
貸与される月額 | 学校区分や通学形態により異なる月額 | 3・5・8・10・12万円(月額)から選択できる |
金利 | 無利息 | 0.01%~0.33% 在学期間中は無利息 |
申込の時期 | 予定採用(高校生)…高校3年生の春頃 在学採用(進学後)…進学先での春頃 | |
貸与される時期 | 予定採用(高校生)…入学後の4~6月 在学採用(進学後)…次年度の4~7月 |
上記奨学金に付加して受けられる制度
〇所得連動返還型無利子奨学金(第一種奨学金のみ)
第一種奨学金の厳しい貸与基準を満たしたうえで、世帯年収が300万円(所得200万円)以下の人は、貸与終了後に本人が一定の収入(年収300万円)が得られるまでの間は、奨学金の返済を猶予するという制度です。
卒業後の返済の不安を、少しでも軽くしてくれます。
〇入学時特別増額
国の教育ローンを利用できず、第1学年の入学月から奨学金の貸与を受ける人で、申し込み時に世帯の認定所得金額が0円以下の場合、第1回の振込時に一時金として10・20・30・40・50万円のいずれかを増額して貸与を受けることが可能です。
万が一返済が困難な場合には、事情に応じた救済制度もあります
- 返還期限猶予制度…傷病・災害・経済的理由がある場合に、一定期間は奨学金の返済猶予が可能になる制度。
- 減額返還制度…傷病・災害・経済的理由がある場合に、当初決められていた毎月の返済額を1/3にして返済する制度。
- 返還免除…本人の死亡または精神若しくは身体の障害によって、労働能力を喪失または高度の制限があり返還できない場合に、全部または一部が返還免除となる制度。
卒業後に返還したお金は、次の奨学生の奨学金となって支援が続いていきます。感謝をこめてきちんと返還するようにしたいですね。
教育ローンとは
住宅ローンやマイカーローンなどさまざまなローンが用意されている中で、使途が学生の教育費に限定されているローンが「教育ローン」です。
国が貸し付ける教育ローン(日本政策金融公庫)と、民間の金融機関が取り扱う教育ローンがあり、民間の教育ローンは、銀行・JA・信用金庫・信販会社など多岐にわたる機関が取り扱っています。
国の教育ローン(日本政策金融公庫)の特徴は、金利が低く良心的な条件ですが、民間の教育ローンよりも審査が厳しくなっているのが注意すべき点です。
融資自体は、申し込みから~審査~融資実行までの期間がおよそ1か月程度で完了します。
ただし合格発表の時期など申し込みが集中する時期には、審査に時間がかかってしまうことも予想できます。万が一不合格だった場合には後からキャンセルすることも可能ですので、なるべく早めに手続きを済ませておくほうが無難でしょう。
国でも民間でも、基本的にはいつでも申し込めるという手軽さがあり、融資のスピードも比較的早いので、急に必要な費用が発生した場合でも間に合うのが心強いですね。
国の教育ローン | 民間の教育ローン | |
---|---|---|
融資限度額 | 1人につき350万円 | 金融機関ごとに異なる |
金利 | 年1.76%(2018年6月現在) | 平均2.0~4.0% |
申込のタイミング | 必要な時期の2~3ヵ月前 | 遅くても1ヵ月前 |
手続きにかかる期間 | 申込完了から20日程度 | 申込完了から7~10日程度 |
連帯保証人 | 不要 (保証料が必要) | 不要 (保証料がかからないことも) |
返済開始 | 翌月または翌々月 | 翌月または翌々月 |
返済期間 | 15年以内で任意設定 所定の要件を満たす場合は18年以内 | 金融機関や借入金額 などによって異なる |
繰上返済手数料 | 振込手数料のみ | 金融機関ごとに異なる |
ローンにかかる金利は国のほうが年1.76%と圧倒的に低く、民間では年2.0%~4.0%と金融機関ごとに差があります。
「金利が低くて好条件=審査の難易度は高め」と認識しながら、複数の教育ローンを比較してみるのも良いかもしれません。
奨学金と教育ローンをうまく併用する方法
どちらかを選ぶのではなく、それぞれのメリットを生かしながら併用する、という方もいらっしゃいます。
まずは、これまでに挙げたそれぞれの特徴からわかる、メリットとデメリットをまとめてみました。
奨学金 | 教育ローン | |
---|---|---|
対象となる人 | ・成績優秀だが経済的に進学が難しい ・学生自身が低金利で借りたい | ・スピーディーにまとまった資金が必要 ・親が学費を準備したい |
メリット |
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デメリット |
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「高額な費用を借りる」という目的では無利息や低金利で借りれるほうが良く、条件を満たすなら費用全額を利率の低い奨学金でまかないたい…と思ってしまいますが、正直デメリットもあり奨学金だけに依存してしまうのは難しくもあります。
例えば、奨学金は申込の時期が限られていて、貸与までに時間がかかるのが難点です。基準も厳しく月額ごとの貸与のため、入学金や1人暮らしを始めるための準備金など初期にかかる費用は別途用意しなければなりません。
そして貸与を受ければ受けた分だけ卒業後の生徒自身の経済的負担が増すことも、きちんと視野にいれながら検討したいところです。
そこで、教育ローンとの併用が可能であれば「入学金や前期分の学費などの初期費用は教育ローンで親が準備をし、入学以降の学費を奨学金でまかなう」という方法が有効的です。
教育ローンは、上限額までであれば再び借りることができるという利点もありますので、後期に学費が不足してしまった場合にも役立ちます。
冒頭にもお話したように教育資金は大きな出費です。奨学金の貸与条件を満たしている方は事前に併用も視野に入れて、うまく計画を立てていきましょう。
大学によっては入学金や学費を免除してくれることも?
国立大学では、「経済的な理由によって授業料の納付が困難で、かつ学業優秀と認められる人は全額または半額免除になる」という制度も用意されています。
免除ということは、基準がよほど厳しいのでは?と思われがちですが、収入制限も学力基準もそう厳しくはありません。
こちらも適用となれば大きな恩恵を受けられますので、該当する方はぜひ活用したい制度です。
文部科学省のホームページには平成13年に発信された通達があり、免除の対象となる基準が明示されています。詳細は以下の通りです。
収入に対する基準
全額免除・半額免除を受けるには、世帯収入が以下の収入基準を超えていないことが条件です。
<全額免除に係る収入基準額表>
区分 | ||
---|---|---|
世帯人数 | 1人 | 880,000円 |
2人 | 1,400,000円 | |
3人 | 1,620,000円 | |
4人 | 1,750,000円 | |
5人 | 1,890,000円 | |
6人 | 1,990,000円 | |
7人 | 2,070,000円 |
<半額免除に係る収入基準額表>
区分 | ||
---|---|---|
世帯人数 | 1人 | 1,670,000円 |
2人 | 2,660,000円 | |
3人 | 3,060,000円 | |
4人 | 3,340,000円 | |
5人 | 3,600,000円 | |
6人 | 3,780,000円 | |
7人 | 3,950,000円 |
出典: 文部科学省ホームページ 授業料免除選考基準の運用について
ただし上記の収入とは、一般的な源泉徴収票の支払金額や確定申告時の所得金額とは違い、独自の計算式によって算出します。
<① 控除額>
収入 | 控除額 |
---|---|
1,040,000円以下 | 収入金額と同額 |
1,040,000円~2,000,000円 | 収入金額×0.2+83万円 |
2,000,000円~6,530,000円 | 収入金額×0.3+62万円 |
6,530,000円以上 | 258万円 |
<② 特別控除額(該当者のみ)>
母子・父子家庭世帯 | 490,000円 |
---|---|
小学生がいる場合、1人につき | 80,000円 |
中学生がいる場合、1人につき | 160,000円 |
国公立高校生がいる場合、自宅通学1人につき | 280,000円 |
自宅外通学1人につき | 470,000円 |
私立高校生がいる場合、自宅通学1人につき | 410,000円 |
自宅外通学1人につき | 600,000円 |
国公立大学生がいる場合、自宅通学1人につき | 590,000円 |
自宅外通学1人につき | 1,020,000円 |
私立大学生がいる場合、自宅通学1人につき | 1,010,000円 |
自宅外通学1人につき | 1,440,000円 |
障がい者がいる場合、1人につき | 860,000円 |
長期療養者がいる場合、1人につき | 療養のための特別な支出額 |
主たる家計支持者が別居している場合 | 別居のための特別な支出額 (71万円が限度) |
火災・風水害・盗難等の被害を受けた世帯の場合 | 将来長期にわたって支出増 または収入減になる年間額 |
本人が自宅通学の場合 | 280,000円 |
本人が自宅外通学の場合 | 720,000円 |
例として、3人世帯のモデルケースで計算してみます。
- 父 年収500万円
- 母 年収100万円
- 学生本人(自宅通学)
まずは①控除額を差し引きます。(1人ずつ算出しましょう。)
父:500万円-(500万×0.3+62万円)=288万円
母:100万円-(収入と同額)=0円
次に、特別控除額を差し引きます。該当する項目が「本人が自宅通学の場合」のみなので、28万円が適用されます。
288万円-28万円=260万円 ←この金額が授業料申請上の収入額です。
収入基準額表と照らし合わせると、全額免除の162万円は超えていますが、半額免除の306万円以内ですので、半額免除は対象になります。
学業優秀者に対する基準
学業優秀であるかどうかはそれぞれの大学によって判断が異なり、明確な成績基準はありません。
大学の用意している枠や、希望者の人数などによっても変わるようですので、そこはあまり神経質にならず、経済的事情で免除を希望する方はダメ元で一度申請してみても良いでしょう。
また私立大学であっても、成績優秀者やスポーツ特待生は学費が免除になるといった奨学金制度を用意している大学もあります。希望している大学にどんな制度があるのかぜひ一度調べてみてください。
日本学生支援機構による給付型奨学金がスタート
日本学生支援機構でも、2017年度から給付型奨学金が実施されました。先述の貸与型ではなく、返済義務のない奨学金です。ちなみに貸与型と併せて利用することも可能です。
区分 | 国立 | 公立 | 私立 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
自宅通学 | 自宅外通学 | 自宅通学 | 自宅外通学 | 自宅通学 | 自宅外通学 | |
大学・短期大学・ 高等専門学校・専修学校 | 2万円 | 3万円 | 2万円 | 3万円 | 3万円 | 4万円 |
金額はそう多くはないですが、出費の多い家計を補助してくれるありがたい給付となりそうです。
最近は奨学金を返せない人が多く社会問題に。他ローンと同じように返済計画を立ててから申し込もう
明るい未来への橋渡しのような奨学金制度。家庭の事情などから進学をあきらめていた人でも出世払いで学費を準備できる、夢のような制度のように感じてしまいがちですが、実際はれっきとした「借金」です。
最近は奨学金を返せずに、自己破産(奨学金破産)してしまう人もいるようです。
また、滞納すると高い延滞金が加算されたり、連帯保証人である親に対して請求が行われたり、あげく裁判や差し押さえなど、厳しい回収が行われます。(参考:日本学生支援機構 返還金回収強化策の概要等について)
借金であるということは、車や家をローンで購入することと同じで、「払えないなら最初から購入しない」という考え方もありますし、「購入する前のしっかりとした返済計画が重要」でもあります。
先のことはわからないもので、「大学を卒業できたから、返済できるくらい十分なお給料をもらえる会社に就職できる」という保証はありません。そのことを踏まえながら親子でしっかりと話し合い、熟考した返済計画を立てたいですね。
【小さい子供がいる家庭向け】早めに学資保険などを積み立てておくのがお勧め
大学の学費は大きな支出だからこそ、できれば事前に備えておきたいものです。現在は子どもが生まれると分かった時点から加入できる学資保険もあり、早い段階から将来への対策を考えている方が増えています。
積み立てる年月が長くなればなるほど、毎月の貯蓄に充てる家計負担は少なくて済みますし、計画的な資金づくりに学資保険は役立ちます
なるべくなら、子どもが小さいうちから、計画的に積み立てていきたいですね。
ちなみに、今現在学資保険に加入している方は、学資保険で足りない分を奨学金や教育ローンで併用することでリスクはより少なくなると思います。
この記事を書いた人
- よしの
- 1980年生まれ。沖縄県出身の愛知県在住。1人の娘と1匹の猫を育てるシングルマザー。離婚後の将来に不安を感じてお金についての勉強を始めたのちにプランナーとなり、現在はライターとして活動中。好きな食べ物はあん肝とだし巻き玉子。FP2級、証券外務員1種。
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